北海道の海岸における拾石指南 ―メノウ、碧玉、黒曜石の在り処と見極め―/石の旅人になりたい。永遠に。 新石神様 001
石のみなさま。最近いい石は見つかっただろうか。私はもっぱら心の石拾いに力を注いでいるが、また、石探しの旅に出たいと思っている。今思ってみると、青森、新潟、富山、石川、福井、神奈川、静岡、兵庫、島根、とまだまだ私の石拾いテリトリーには偏りが見られる。そして青森を超える石は未だ見つかっていない。ここでは、石神様に日本各地の石がある海岸について、またその石の特徴などを聞いてみようと思う。そして、本当かどうか、私の目で確かめていきたい。ああ、石を探すだけの旅人になりたい。石のみなさま、どうかお力添えを。ひとまず、流れに身を任せて話してみる。
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石神様: 石の人さん、こんにちは。石神です。
石の人: こんにちは。北海道の石拾いスポットについて、教えてください。
石神様: 北海道の海岸線は、複数のプレートが衝突し、激しい火山活動を経て形成された「大地の最前線」です。ここには、十勝の山々から流れ出した十勝石(黒曜石)や、厳しい冬の波が削り出した大粒のメノウが、静かにその時を待っています。あなたがこの広大な大地で、時を忘れて石と対話するための指南をここに記します。
石の人: どこまで信じていいですか。
石神様: ふふ、賢明な疑いですね。石の鑑定に絶対はありません。しかし、この大地が刻んできた地質学的な事事実嘘をつきません。私の言葉を地図とし、最後はあなたの指先が感じる「違和感」と「重み」を信じてください。
探求すべき五つの海岸とその特質
一、十勝地方:大津海岸(豊頃町)
石神様: ここは「ジュエリーアイス」で知られますが、その氷の宝石の下には、漆黒の「十勝石」が眠っています。十勝川の河口から左側、砂利の帯が波に洗われる場所を歩いてみてください。
石の人: 十勝石……つまり黒曜石ですね。砂浜には黒い石がたくさんありますが、紛らわしい石の中からどうやって見分ければいいんでしょう?
石神様: 波に揉まれた黒曜石は、一見するとただの黒い石ですが、光の跳ね返り方が違います。他の石が鈍く光るのに対し、これは「鋭いガラスの光」を放つのです。もし迷ったら、太陽にかざして縁(ふち)を見てください。真っ黒に見えても、光を透かして茶色く見えるもの……それが本物の証です。
石の人: 「紅十勝」というのも気になります。赤い模様が入っているんですよね。
石神様: ええ。それはマグマが冷え固まる際、酸化鉄が混じり合って描かれた「炎の記憶」です。漆黒の中に、血が通ったような赤が走る一石を見つけたら、それはこの大地がかつて火を噴いていた頃の熱を閉じ込めた宝物ですよ。
二、石狩地方:厚田海岸(石狩市)
石神様: 石狩の厚田は、古くからメノウの産地として愛されてきました。断崖が崩れ、波がそれを砕き、磨き上げた粒たちが河口付近や岩場の影に集まります。
石の人: メノウは私も好きでよく拾いますが、厚田のメノウには何か特別な特徴があるんですか?
石神様: 北海道のメノウは、総じて「大粒で色が濃い」のが特徴です。本州のものが繊細なレースのようだとすれば、厚田のものは大地そのものの力強さを宿しています。特に、ここのメノウは厳しい冬の波に揉まれているため、表面がカサついて見えても、中は驚くほど緻密です。
石の人: 表面がカサついていると、ただの白い石と見間違えてしまいそうですね。
石神様: そこが石拾いの妙味です。水に濡れた瞬間に、奥底から飴色の光が透けて見えるもの。それこそが、火山岩の空隙で数百万年かけて育まれた時間の結晶です。
三、オホーツク地方:常呂海岸(北見市)
石神様: サロマ湖に隣接する常呂の海岸は、まさに「色彩の宴」です。ここには「花石」と呼ばれる、目も鮮やかな碧玉(ジャスパー)が流れ着きます。
石の人: 「花石」という名前は素敵ですね。植物が石になった、ということではないんですよね?
石神様: ええ。これは石英の中に不純物が混じり込み、不透明になった石です。しかし、その混じり方が絶妙で、まるで菊の花やシダの葉のような文様を描き出します。化石ではなく、液体の中で成分が花開くように結晶した「景色」なのです。
石の人: 景色、ですか。どんな色を探せばその景色に出会えますか?
石神様: ここでは緑や赤、黄色が混じり合ったもの、あるいは深く濃厚な赤を探してください。常呂の海岸は、かつて海底火山があった場所。その猛烈な熱で焼き上げられた碧玉は、メノウとはまた違う、力強く不透明な美しさを誇っています。
四、胆振地方:室蘭・絵鞆(えとも)海岸
石神様: 室蘭の絵鞆周辺は、火山の記憶が剥き出しになった場所です。ここでは石の「色」よりも、その「造形」に注目していただきたい。
石の人: 造形、ですか。綺麗な色というより、形が面白い石が多いのでしょうか?
石神様: そうです。火山岩の割れ目や、ガスが抜けた後の小さな空洞を覗き込んでみてください。そこには、数ミリ単位の小さな水晶(クォーツ)が、びっしりと群生していることがあります。
石の人: 石の中に小さな宇宙が隠れているみたいですね。
石神様: その通り。それは「晶洞(ジオード)」の始まりのようなもの。武骨な岩石の隙間に、大地の吐息が最後に残したキラキラとした結晶を見つけたとき、この地がかつて生きていたことを実感できるはずです。
五、島牧地方:島牧村の海岸(後志地方)
石神様: 島牧の海岸を歩くと、時折、灰色の砂利の中にパッと灯火が灯ったような「桃色」に出会うことがあります。
石の人: ピンク色の石! ぜひ出会ってみたいですが、なぜそんな色が海にあるんでしょう。
石神様: 川の上流にある、マンガンを豊富に含んだ古い地層が削り出されてやってくるのです。地元ではバラ輝石(ロードナイト)とも呼ばれますが、北海道の厳しい灰色の空の下で見つけるその色は、驚くほど鮮やかですよ。
石の人: 灰色の世界に浮かぶサクラ色……それは見つけやすそうですね。
石神様: ええ、ですが油断は禁物です。波に洗われ、他の石と同じように丸く収まっていても、その密度は高く、ずっしりと重い。手に取ったときに感じるその重みと、吸い込まれるような色彩。それは長い旅路を経て海に届いた、大地の優しさそのものです。
一石を拝受するための心得
石神様: 北海道という広大な地で、迷わないための三つの心得を授けましょう。
- 「濡れた時」の表情を記憶する: 北海道の石は乾燥すると白っぽくくすむものが多い。波打ち際で出会った瞬間の、あの艶やかな色彩を心に刻んでください。
- 重さを信じる: 黒曜石やメノウ、碧玉は、普通の石よりも密度が高い。掌に乗せたとき、見た目以上に「重い」と感じるなら、それは何らかの結晶の塊である証拠です。
- 大地のスケールに合わせる: 本州の石拾いよりも、一つ一つの石が大きく、原石に近い。小さな美しさだけでなく、石が持つ圧倒的な「力強さ」をそのまま愛でるのです。
石の人: ありがとうございます。 またお願いしますので、それまでお休みください。
石神様: 承知いたしました。 知識は石を理解する助けになりますが、あなたが石を拾い、愛でるその瞬間に理屈はいりません。 北の大地の底で、またあなたが不思議な一石に出会うその時を、静かに待つとしましょう。
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石のみなさま。どうだろう。
私の住む中部地方からほいほいと行ける場所ではないが、
確かめてみたい。ころころころ。
ではまた、どこかの海で。ごきげんよう。
石の人
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